「上筒井から」Vol.9(Nov. 2001)

活動を振り返って


 神戸YWCAが上筒井の会館から移転する機会に、復興委員会(現:地域活動委員会)の一端を担っている夜回り準備会(仮)もこれまでの経過を簡単にふりかえって見たいと思ったのですが、準備会として整理したわけではないので、機会を改めてまとめたいと思います。


 夜回りや昼回り、病院訪問をしていると、色々な物資が役立つことがあります。寒いときに使ってもらう毛布や懐炉、衣類、味噌汁用の紙コップ、生活保護を受けて居宅生活をはじめる人に使ってもらうなべや薬缶、コタツやコタツ布団。入院したが着替えも無い人に届ける下 着や洗面具。石鹸やタオル、歯磨き。これまでは、いつか役立つだろうと思うものを保管できたのですが、移転して置く場所が少なくなると、何を保管するか、何を処分するか決めなければならないからです。それは何をしようとしているかと、結びついているわけです。かなりの衣類や布団等をカトリック社会活動神戸センターに引き取ってもらうことが出来たので、物資の量は幾らか減ったかも知れません。

 で、今回は、野宿している人が、妙な目に会っていることを報告してみます。

 ある病院で「裁判所から呼び出された」と慌てている人の相談を受けました。サラ金から訴えられたのですが、変わっているのはその人が借金したのではないのです。友人を通して、印鑑証明と住民 票を取ってくれたら、お礼をすると言われて、取り寄せて渡した。結局お礼はもらわなかったが、裁判所の出頭命令を見ると、80万円ほどの中古の外車を買って、3万円しか支払っていないから残りを利息をつけて支払えと言う訴えでした。本人は車を自分が買ったことになっているのを知らなかったのです。野宿している人は、現実には住民票のある場所にはいないので、足がつかないと思って、利用されるようなのです。

 新聞によると、野宿している人を会社の役員にし、多額の生命保険をかけ、殺して保険を取ろうとしたと言う事件がありました。 またつい最近では、親切そうに「あなたの年金がどうなっているか調べてあげる」と言って、書類をそろえさせ、手続きをし、本人には「だめだった」といっておいて、自分の懐に入れていたという事件がありました。

 病院でも、必要の無い検査漬けにして、治療はあまりせず、よくなっても3ヶ月はおいておく。悪くても3ヶ月で退院させる。3ヶ月で医療費が下がるためです。酷い医療機関は病院を複数持っていて、3ヶ月ごとに病人を移し変えて、高い医療費を稼いでいるのです。また本人の病状と関係無く、精神病院に送りこむなど、人間扱いしないケースが沢山見られます。けれども、野宿している人を受け入れてくれる病院が限られているために、そんな病院でも、有難いと思えることがある。やりきれない感じです。

 仕事に関して言うと、土木・建築の仕事が少ないため、どんなに安くても働きたいと言う人が増えてきたようです。夜回りで「ボランティア募集」と言うチラシを持っている人に出会った。「まじめに働けば、寝るところと食べることは保証する」というのです。つまり、賃金は 無いわけです。

 東京で労働相談をしている人の話では、賃金を払わない飯場があると言うので、雇い主と交渉しようとしたが、半数の労働者は、飯が食えるだけでも助かるから、賃金が無くてもかまわないと言ったそうです。


 ゼネコンも不良債権を抱えて、今後がわからないのですが、それだけになんとしても仕事を取ろうとして、極端に安くで落札する。その代わり下請けには安くで押し付ける。下請けは孫請けに無理をさせる。一番下はたまらないので、材料をケチったりする為に不良住宅が出来るのだそうです。腕の良いプロの大工でも早朝から夜まで働いても8000円くらいだそうです。

 安くても、仕事がないよりましだ、背に腹は代えられないというのは、その通りだろうと思うのですが、釈然としないものが残ります。先日「農村がホームレスを受け入れる」という新聞記事を見ました。現在の農業の実態を考えると、善意だとは思うのです。けれども、食べるだけで良ければ、という条件は厳しい。「ボランティア募集」と重なって感じられて、複雑な気持ちにさせられました。沈め石という言葉を思い出します。

(2001年11月・耀)


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