「上筒井から」Vol.11(Nov. 2001)

一本のタバコから


 秋も深まり神戸を見下ろす六甲の山々の木々も紅く色付きとても過ごしやすい季節を迎えました。夜回り活動も冬に備えた準備が始まっています。

 9月29日(土)神戸の灘区にある都賀川公園で”お茶会”を開きました。そもそもこのプログラムは夜回りでなかなかお互いの顔を見ながら(夜の活動なので顔がハッキリ分りません)お話を伺う機会が無いこと、また生活保護の相談をきっちりする場が無かったことから実現したものです。
 当日は午後1時から前もって焼いておいた”おからクッキー”とコーヒーや紅茶などの飲み物を用意し、ボランティア6名で行いました。しかし待てども待てどもお客さんは来ず、時間ばかりが過ぎていきました。しかし、皆あせる様子もなく、のんびりした時間がただゆっくり流れているようにも感じられます。

 ふと10mほど離れたベンチに1人の男性が腰を下ろし、タバコを吹かしているのが目に入った。一度もお会いした事がない中年男性、声を掛けるのに少し戸惑ったが思いきって声を掛けてみた(声を掛けることにはなれているはずだが、やはり緊張する)。

 「こんにちは神戸YWCAのHです。向こうでお茶会をしているので、良かったら一緒にお茶でもどうですか?」と声を掛けると「お茶はいらん!兄さん何者やねん」と声が返ってきた。
 そのおじさんは50代前半と思われ、上半身裸で全身真っ黒に日焼けをしていた。荷物はナイロン製のボストンバックと紙で出来た手提げ袋に生活道具だと思われる荷物がぎっしり詰め込んであった。

 私はYWCAの夜回り活動の話しや世間話をしていく内に少しずつ、おじさんの緊張感が解けていくのを感じた。おじさんは神戸生まれの神戸育ち。阪神大震災の前の年に神戸を離れ仕事をしていたが、会社が倒産し、神戸に戻ってきたそうだ。

 「やっぱり神戸は良いなぁ。この神戸に骨をうずめるつもりで戻って来たんや。死ぬんやったらここで死にたいと思てな。」おじさんの顔は嬉しそうでもあり、少し不安そうな感じで語ってくれた。緊張がほぐれたかなっと思い、もう一度お茶に誘ってみた。

「今まで人の世話になった事は無いから、お茶を貰う理由は分けにはいかんよ。ましてや見知らぬ兄ちゃんから」とやさしい口調で断られた。
 おもむろにポケットから半分吸いかけの煙草を取り出し、吸いながら話しを始めた。

 「兄ちゃん、こんなタバコでも十分吸えるんやで。これなぁ高速道路の路側を歩いて拾たんや。ほいでなぁ、これ見てみ・・」と言って別のタバコケースを取り出した。

 「このタバコケースにはサラのタバコが入っとる。このタバコはな、何かあった時のお礼用に取ってあんねん。こんな生活してても、友達からいろいろと親切にしてもらうんや。そん時、俺には何もお礼できんやろ。だから、せめてタバコのサラでもあげれる物があったらええなって思って、きれいなタバコは大事にケースにしまっとるんや。俺が吸うのはこんなシケモク(吸いかけの煙草)で十分や」とにこにこと笑いながら話していた。

 暫らくたって「おじさん!!お茶飲んでってえな。俺、クッキー作ったんや。おじさんにも味見してもらいたいねん」と言うと嬉しそうな笑顔を浮かべ、「お兄ちゃんがそこまで言うんやったら飲んでいくわ」とお茶会の輪に入ったくれた。

 私達が普段”お礼”についてあんまり考えていない事が多い。人に対する精一杯の”お礼”はこんな風な姿が本当だろうと感じさせられた。皆さんはこのおじさんのような心からの”お礼”が出来ていますか?

(2001年11月・理)


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