「上筒井から」Vol.12(March 2002)

ウトロから:国連の勧告をどう生かすか

地上げ反対!ウトロを守る会


 昨年8月31日、国連・社会権規約委員会は総括所見(最終見解)を公表し、ウトロ住民(約70世帯、230人)を強制立ち退きから救済するよう日本政府に勧告しました。地上げから朝鮮人集落・ウトロを守る運動にとって、画期的な成果。ウトロ住民の存在そのものとその主張の正当性が、初めて認められた瞬間でした。それもジュネーブで。

 98年に日本政府が国連に提出した第二回報告書では、まるで国内に強制立ち退きは存在しないかのような記載でした。日弁連が作成した対抗レポートでも、ウトロ裁判の記載はありません。私は国際法を学んで、NGOレポートを必死の思いで書きました。しかし、国連への情報提供はこれだけ。果たして委員会で取り上げてもらるか……、不安でした。

 昨年7月、委員会審査に先だち予備調査のために来日された担当委員を、私たちは大阪、神戸、東京と「追っかけ」て、直訴。ジュネーブでも協力し合ってロビー活動。今回の結果は、こうした努力が実ったものです。

 この勧告に、委員会が示した人権基準を重ねると、日本政府がとるべき具体的措置がはっきりします。

1、政府は平和的な解決を求め、住民と実質的に話し合わなければならない。
2、政府は強制立ち退きに代わるすべての合理的な代案を求めるべきである。
3、政府は住民をホームレスにしてはならない。最低限、代替住宅が提供すべきである。
4、政府は住民のコミュニティーを壊してはならない。
5、政府はこの勧告を実施するためにとった措置を国連に報告をしなければならない。

 以上の5項目は、人権保障を基本としたウトロ問題の解決の方向を示しています。もちろん、この考え方はひとりウトロだけのものではありません。応用可能です。人権基準はすべての人に等しく及ぶ(べき)ところにその意義があるのです。……アフガニスタンにも、パレスチナにも、そして神戸にも。

 もっとも、今回の所見そのものに日本政府に対する国内法的拘束力はなく、すでに確定した司法判決が無効になることもありません。しかし、国際人権の大きな潮流は閉鎖的な日本社会を巻き込んで進んでいます。問題は、これをどのようにうまく使いこなすか、です。
 私たちはさっそく、政府や自治体に勧告の受け入れと、強制立ち退きに代わる合理的な解決案の実現に向けて改めて要望しました。すでに立ち退きに代わる「ウトロまちづくりプラン」を行政に提案済です。しかし、不動産業者(裁判の原告)は住民に期限をきって、強制立ち退きによる解決、つまりは暴力的な「強制執行」の策動を強めてきています。

 日本政府はジュネーブで「ウトロ住民と協議中である」と言明し、それが所見にも反映されたのですから、その協議を拒否することはできなくなりました。政府との協議が始まると、自治体の対応も自ずと変化してきます。一歩一歩の前進です。また、こうした新しい「まちづくり」の動きは、土地所有者をして「強制執行」策動にブレーキをかけさせる打算的動機の一つともなるはずです。

 このように、ウトロではまだまだ綱渡りのような闘いが続きますが、私たちは一人のホームレスも出さない覚悟で、希望をもって最後まで闘うつもりです。

 これからも連携して、助け合いましょう。



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